樹木の濃密な香りを吸い、輪郭が膨張する瑞々しい季節の色に瞼を薄くさせながら、腰迄の笹を掻き分けるように歩んでいった。笹の葉で腕を幾筋か切り裂き、薄い血を意識の外で舐めて進んでいた。
胸の上下も汗の滴も自らの呼吸も、別物の動きと喘ぎに聴こえ、獰猛で闇雲な欲情が骨の芯辺りから垂直に流れ、このモノに宿るような気分となった。
2007年7月アーカイブ
膝を折り腰を屈めて手を荒いつつ水場の脇に置かれてあった、まだ農作業の名残りのある黒土がこびりついた鍬に目をやると、肩口からふいに、
「あれで獣もやるし、人もやる。そういうものよ」
と嗄れた女の声が聴こえた。
オープンカフェのテーブルに座り、所在なくぼんやりと路行く人を眺めていた。
こちらは椅子の中の影のようだったのだろうか、同じテーブルに女が誰もいない席に座るように、ため息まじりに腰を下ろし、バッグを横の椅子に置いてから、
「あら、こちらいいかしら」
と、はじめて人に気づいたような台詞を投げて寄越した。
頷いてから、女の口から面倒な言葉が続いたら立ち上がろうとこの時決めたが、細い煙草を燻らせこちらに横顔を向けたまま、睫毛を下ろし人々の歩行のはじまる路の入り口あたりを、遠く眺めるので、あたりは更に停止したように消音し静まっていった。
微かな頭痛の名残を残し、必要ないだろうと手荷物を怠けて宿を気楽に後にし、多少濡れても構わないとゆっくりと歩き一時間程過ぎていた。ふいに密度の濃くなった驟雨を避けて軒先に体を寄せハンカチで肩を拭うと、街道を挟んだ向こう側の軒に、暗がりに灯るような白い皮膚をこちらと同じように拭うワンピース姿の女が見えた。一度眼差しを会わせてから、見てはいけないモノをみてしまったような羞恥が眉間に刻まれ、間を走り抜ける車の窓に顎と視線を共に泳がせて逃れるようにした。ポケットの煙草を探ると残りが少なく凹んだ箱を掴み、一本を銜え火をつけ、左肩脇にあった自動販売機に小銭を入れ、普段は吸わない銘柄を選んでいた。
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