Posted on 8th May 2010No Responses
塔のような

モニュンメントは制作の中途で、朝早く外に出た時に、広場の真ん中に立てられたそのモニュメントを、遠く離れた場所から、制作者独りが見上げている。よく知っている男だった。
 低緯度であることを示す鬱蒼としたジャングルが、簡素な家々の背後を取り囲み、しかし、広場のような丸い空間は、他にも点在しており、制作者から、渡された図面には、10ほどの丸い空き地とそれを取り囲む家の図が描かれていて、彼は、此処と其処とお前のところが未完だ。と言うのだった。
 こちらは、石を数人で原始的に加工した浅い記憶があった。斜めに支え合う「チビタのおでん」の先っぽのようなものをまだ地面に横たえたままだったので、図面を渡した男の、爬虫類の尻尾のような彫刻の向きを、どの方角にすべきか悩んで眠れなかったという話を聞きながら、こちらはまだ何もできあがっていない焦りばかりが膨れるのだった。
 この村の住民は、樹々を組み上げよじ上って腰に蔦を巻き死を覚悟し飛び降りる成人の儀式を行う部族の末裔であり、今では流石に膝上で切ったジーンズをはき、コーラをラッパ飲みしロックに合わせて踊る程度で大人になる。儀式自体行われなくなったけれども、長老らしい白い髭の老人から、数人がよじのぼっても倒れぬように言いつかっていることを憶いだしていた。
 「赤ん坊が生まれなくなったから仕方ない」
 老人の呟きを聞いてから、こちらの名前を呼ばれて振り返り、さきほどの爬虫類の尻尾の塔を制作している男が、ほらと指差すので、そちらを眺めると、家々の屋根のむこうに、壊れたセスナ機の尾翼が立ち上がり、あれはないよなと、彼は笑った。
 それから近寄って、互いの家族に関しての喪失を表情に漲らせてから黙り込むと、白髭の老人が、こちらふたりに向かって歩み寄り、
「あの世もこの世もかわらんだろ」と肩に手をおいた。

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